最新の糖尿病治療 – 糖尿病治療が心臓病・腎臓病を予防する

インスリンを分泌するすい臓の細胞に障害があり、インスリンが出なくなることが原因の1型糖尿病はインスリン注射でインスリンを補う治療が基本となります。

一方で、遺伝的な要因や、過食、運動不足、加齢などによる主にインスリンが作用しにくくなっている(インスリン抵抗性)ことが原因となる2型糖尿病では、食事・運動療法に加えて、内服治療・注射治療を実施することが多いです。

2型糖尿病の治療薬には、
	
・スルホニル尿素薬(SU薬)
・速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)
・α-グルコシダーゼ阻害薬
・チアゾリジン薬
・ビグアナイド薬
・イメグリミン
・DPP-4阻害薬
・SGLT2阻害薬
・GLP-1受容体作動薬(注射、経口ともにあり)
・インスリン注射

と多くの種類がありますが、当院でよく処方するのは、

・ビグアナイド薬
・SGLT2阻害薬
・GLP-1受容体作動薬(注射、経口ともにあり)

となります。これらの薬は主に処方するのは、下記で紹介する心臓病を予防するエビデンスがあるからです。

当院でよく処方する内服とそのエビデンス

★ビグアナイド薬(メトホルミンなど)

英国で行われた肥満型糖尿病の前向き研究UKPDS34では、メトホルミンがSU薬およびインスリン製剤よりも、脳卒中や死亡を有意に減らすことが示されました。(1)
さらに10年後まで追跡調査を行ったUKPDS80試験にて、メトホルミンの効果が10年経過しても持続することがわかりました。(2)
ビグアナイド薬の詳細な機序はまだ明らかになっていない部分もありますが、死亡をへらす事ができるというのは薬を選択肢する上で大きな意義をもつといえます。
非常に安価(3割負担で1錠3円程度)というのも魅力です。

注意点
腎機能が悪い方や、CT検査などで造影剤を使用する際は、乳酸アシドーシスが生じることがあるため注意が必要です。


★SGLT2阻害薬

2022年に糖尿病学会から公表された薬物治療のアルゴリズムにおいて、慢性腎臓病、心不全、心血管疾患を有する場合には、付加的な効果を期待して、SGLT2阻害薬を使用することが推奨されています。

エビデンス
Eugene Braunwald先生は、循環器業界の生きるレジェンドであり、90歳を超えてなお、院長が留学していたときに行っていた国際共同研究のWEB会議にも自ら参加されるほどのアグレッシブな先生。
そんな、現在93歳となるEugene Braunwald先生の総説でも、SGLT2阻害薬のエビデンスはまとめられております。(3)

この中で、EMPA-REG OUTCOME試験(4)、DECLARE–TIMI 58試験(5)、CANVAS試験(6)において、ジャディアンス、フォシーガ、カナグルが糖尿病患者の心血管イベント、心不全を2-3割へらすことを示したことに言及されております。

心不全を合併した患者にておいては、EMPEROR-Reduced試験(7)、EMPEROR-Preserved試験(8)、DAPA-HF試験(9)、DELIVER試験(10)が、ジャディアンス、フォシーガを用いることで、心不全の再発を約3割へらすことを示しております。そのため、最新の心不全治療 「ファンタスティック4」の1つとしてSGLT2阻害薬の内服が推奨されています。

さらに、慢性腎不全患者にておいて、EMPA-KIDNEY試験(11)、DAPA-CKD試験(12)、CREDENCE試験(13)において、ジャディアンス、フォシーガ、カナグルが腎障害を抑制することも示されております。

体重減少効果
SGLT2 阻害薬は糖質を体内に貯蔵しないため2kg程度の体重減少効果が報告されています。そのために、肥満の場合には特に考慮されます。(14)


★GLP-1受容体作動薬(注射、経口ともにあり)

2022年に糖尿病学会から公表された薬物治療のアルゴリズムにおいて、慢性腎臓病、心血管疾患を有する場合には、付加的な効果を期待して、GLP-1受容体作動薬を使用することが推奨 されています。

エビデンス
心血管疾患のリスクが高い2 型糖尿病患者において、LEADER試験ではビクトーザ(注射製剤)が、SUSTAIN-6試験ではオゼンピック(注射製剤)が、心血管イベントを抑制することを示し、大きなインパクを与えました。(15,16)
一方で、注射製剤であるという点が、患者さんが開始する上での多少のハードルとなることも事実でした。しかし、その後、PIONEER-6試験にてリベルサス(内服薬)も心血管死亡を減らすことが示されました。(17)
また、LEADER試験、SUSTAIN-6試験にておいて、GLP-1受容体作動薬に腎臓を保護する作用があることもわかりました。(16,18)

体重減少効果
GLP-1には満腹中枢に作用し、食欲を抑える効果があります。
また、褐色脂肪細胞に作用し、脂肪の分解・燃焼も促します。
これらの相乗的な効果にて高い体重減少効果があります。
日本人の2型糖尿病患者に対して行われた臨床試験PIONEER 9, 10では、2〜3kgの減量効果が示されています。(19,20)
米国、EU諸国では肥満症に対してすでに使用されており、日本でも2023年3月にウゴービ(注射薬)が肥満症治療剤としての医薬品製造販売承認を取得し、今後、使用できるようになる見込みです。

製剤の特徴
GLP-1受容体作動薬は、以前は、注射製剤のみでしたが、2021年から内服薬としてリベルサスが登場いたしました。
ただし、内服薬のリベルサスは、胃の中に食べ物があると、有効成分が吸収されず、本来の効果が発揮されないため、
・1日1回、空腹時(朝食前)に、コップ半分(120mL以下)の水とともに内服
・飲食は内服後30分以降とする
と注意が必要です。
ちなみに、リベルサスには3mg、7mg、14mgと3種類があり、増量するほど効果が高いです。
まずは、1日1回3mgから開始し、4週間以上経過した後に、必要に応じて7mgに増量します。
また、7mgを4週間以上投与しても効果が十分でない場合は、14mgに増量することも可能です。
代表的な副作用として、便秘、下痢、お腹が張る、むかむかする、といった胃腸症状があるため、注意深くみていく必要があります。


まとめ

ビグアナイド薬、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、いずれも、低血糖のリスクが低く、合併症予防の観点からも優れた糖尿病薬といえます。
当院では、各々の患者さんの抱えている疾患や生活習慣を踏まえて内服薬を検討いたします。


参考文献

1.	Effect of intensive blood-glucose control with metformin on complications in overweight patients with type 2 diabetes (UKPDS 34). UK Prospective Diabetes Study (UKPDS) Group. Lancet 1998;352:854-65.
2.	Holman RR, Paul SK, Bethel MA, Matthews DR, Neil HA. 10-year follow-up of intensive glucose control in type 2 diabetes. N Engl J Med 2008;359:1577-89.
3.	Braunwald E. Gliflozins in the Management of Cardiovascular Disease. N Engl J Med 2022;386:2024-2034.
4.	Zinman B, Wanner C, Lachin JM et al. Empagliflozin, Cardiovascular Outcomes, and Mortality in Type 2 Diabetes. N Engl J Med 2015;373:2117-28.
5.	Wiviott SD, Raz I, Bonaca MP et al. Dapagliflozin and Cardiovascular Outcomes in Type 2 Diabetes. N Engl J Med 2019;380:347-357.
6.	Neal B, Perkovic V, Mahaffey KW et al. Canagliflozin and Cardiovascular and Renal Events in Type 2 Diabetes. N Engl J Med 2017;377:644-657.
7.	Packer M, Anker SD, Butler J et al. Cardiovascular and Renal Outcomes with Empagliflozin in Heart Failure. N Engl J Med 2020;383:1413-1424.
8.	Anker SD, Butler J, Filippatos G et al. Empagliflozin in Heart Failure with a Preserved Ejection Fraction. N Engl J Med 2021;385:1451-1461.
9.	McMurray JJV, Solomon SD, Inzucchi SE et al. Dapagliflozin in Patients with Heart Failure and Reduced Ejection Fraction. N Engl J Med 2019;381:1995-2008.
10.	Solomon SD, McMurray JJV, Claggett B et al. Dapagliflozin in Heart Failure with Mildly Reduced or Preserved Ejection Fraction. N Engl J Med 2022;387:1089-1098.
11.	Herrington WG, Staplin N, Wanner C et al. Empagliflozin in Patients with Chronic Kidney Disease. N Engl J Med 2023;388:117-127.
12.	Heerspink HJL, Stefánsson BV, Correa-Rotter R et al. Dapagliflozin in Patients with Chronic Kidney Disease. N Engl J Med 2020;383:1436-1446.
13.	Perkovic V, Jardine MJ, Neal B et al. Canagliflozin and Renal Outcomes in Type 2 Diabetes and Nephropathy. N Engl J Med 2019;380:2295-2306.
14.	Maruthur NM, Tseng E, Hutfless S et al. Diabetes Medications as Monotherapy or Metformin-Based Combination Therapy for Type 2 Diabetes: A Systematic Review and Meta-analysis. Ann Intern Med 2016;164:740-51.
15.	Marso SP, Daniels GH, Brown-Frandsen K et al. Liraglutide and Cardiovascular Outcomes in Type 2 Diabetes. N Engl J Med 2016;375:311-22.
16.	Marso SP, Bain SC, Consoli A et al. Semaglutide and Cardiovascular Outcomes in Patients with Type 2 Diabetes. N Engl J Med 2016;375:1834-1844.
17.	Husain M, Birkenfeld AL, Donsmark M et al. Oral Semaglutide and Cardiovascular Outcomes in Patients with Type 2 Diabetes. N Engl J Med 2019;381:841-851.
18.	Mann JFE, Ørsted DD, Brown-Frandsen K et al. Liraglutide and Renal Outcomes in Type 2 Diabetes. N Engl J Med 2017;377:839-848.
19.	Yamada Y, Katagiri H, Hamamoto Y et al. Dose-response, efficacy, and safety of oral semaglutide monotherapy in Japanese patients with type 2 diabetes (PIONEER 9): a 52-week, phase 2/3a, randomised, controlled trial. Lancet Diabetes Endocrinol 2020;8:377-391.
20.	Yabe D, Nakamura J, Kaneto H et al. Safety and efficacy of oral semaglutide versus dulaglutide in Japanese patients with type 2 diabetes (PIONEER 10): an open-label, randomised, active-controlled, phase 3a trial. Lancet Diabetes Endocrinol 2020;8:392-406.