最新の心不全治療 「ファンタスティック4」

心不全とは

心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です。

2017年に、多くの人に心不全がどんな病気かわかりやすいようにと日本循環器学会と日本心不全学会が発表した定義が上記になります。

薬での治療として、息切れ、むくみの原因となっている全身に貯まった体液を出すために利尿薬を内服してもらうこともあります。
しかし、利尿薬のみの治療では、長い目でみると、「だんだん悪くなる」を改善することはできません。


心不全のためのくすりは時代とともに進歩している

長期的な予後を改善するために必要なのは、心臓を守る(保護する)役割を持つ内服薬です。

1980年代は、心臓が悪くなっているのだから、心臓に頑張ってもらう薬(強心薬)を使えば良くなるのではないかと考えれました。
そのため、多くの薬の効果を確認するための試験(臨床試験)が行われました。
結果は、一時的には症状は改善するものの、長期的にはむしろ、悪化するという結果でした。

1990年代には、心臓に無理に働いてもらうから、心臓がバテてしまうのではないか、と考えられるようになり、逆に心臓の負担を軽減する薬(β遮断薬)の効果が検証されました。
結果は、予後を大幅に改善する、というものでした。
20年以上経過した今も、β遮断薬は心不全に対する重要な治療薬の一つです。
「心臓の負担を軽減する=心臓の機能に多少のブレーキをかける」、なので、適切に調節しないと心不全が悪化してしまうことがあるので、専門医のさじ加減が必要な治療ではあります。

また、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系といわれる血圧・体液量のコントロールに関わるホルモンの調節機構が心臓とも関連することが知られております。
RALES試験(1999年)によってアルドステロンブロッカー(スピロノラクトン)が、心不全患者の予後が改善することが示されました。(1)
PARADIGM-HF試験(2014年)では、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI、エンレスト)が、これまで予後を改善するために使用されてきたACE阻害薬(エナラプリル)以上に、心不全の予後を改善することが示されました。(2) 
ACE阻害薬(エナラプリル)が心不全の予後を改善することを初めて証明したのが1987年のCONSENSUS試験ですので、実に27年ぶりにより効果が高い薬が登場したことになります。(3)

さらに、糖尿病薬として開発されたSGLT2阻害薬が大きな衝撃を与えます。
糖尿病を良くしても、心臓病が増えたら意味がないという米食品医薬品局(FDA)の意見により、新規糖尿病治療薬では、心臓のイベントが増えないかを確認するように求められております。
その中でSGLT2阻害薬が、心不全の予後を良くするかもしれない、というデータが出てきました。
そこで、行われたのが、DAPA-HF試験であり(4)、2019年に心不全に対するSGLT2阻害薬の有効性を見事に証明しました。


心不全内服薬の今

ここ10年での心不全治療の進歩にて、
β遮断薬、アルドステロンブロッカー、ARNI、SGLT2阻害薬
の4つを、アメリカン・コミックスに登場するヒーローチームになぞらえて「ファンタスティック4」とも呼んでいます。(5) 
当院では、病状に応じて心不全の内服調節をしていきます。
参考文献


1.	Pitt B, Zannad F, Remme WJ et al. The effect of spironolactone on morbidity and mortality in patients with severe heart failure. Randomized Aldactone Evaluation Study Investigators. N Engl J Med 1999;341:709-17.
2.	McMurray JJ, Packer M, Desai AS et al. Angiotensin-neprilysin inhibition versus enalapril in heart failure. N Engl J Med 2014;371:993-1004.
3.	Effects of enalapril on mortality in severe congestive heart failure. Results of the Cooperative North Scandinavian Enalapril Survival Study (CONSENSUS). N Engl J Med 1987;316:1429-35.
4.	McMurray JJV, Solomon SD, Inzucchi SE et al. Dapagliflozin in Patients with Heart Failure and Reduced Ejection Fraction. N Engl J Med 2019;381:1995-2008.
5.	Bauersachs J. Heart failure drug treatment: the fantastic four. Eur Heart J 2021;42:681-683.