糖尿病
糖尿病とは
糖尿病とは、体のエネルギー源であるブドウ糖を細胞が取り込めなくなって、血液中に糖があふれてしまう病気です。
健康な人では、すい臓から分泌される血糖値を下げるインスリンというホルモンがしっかりと働き、血液中の糖を細胞に送り込んでエネルギー源にしたり、脂肪やグリコーゲンという物質に変えて蓄えたりします。
糖尿病(耐糖能異常)では、インスリンが作用しにくくなる(インスリン抵抗性)、あるいはインスリンがすい臓から十分に分泌されない状態となります。
高血糖の状態が長い間続くと、全身の血管や神経が徐々にダメージを受けて、心臓・脳など全身の血管の動脈硬化や3大合併症と呼ばれる「網膜症、腎症、神経障害」などが生じます。
最終的には、心筋梗塞、脳卒中が起こったり、失明したり、人工透析が必要になったりすることもあります。
糖尿病の三大合併症
糖尿病性網膜症
目の網膜には毛細血管が張り巡らされています。
この毛細血管が動脈硬化による損傷を受けると視力が低下します。
進行すると、大出血や網膜剥離が生じたり、時には失明に至ったりすることもあります。
早期発見および治療が重要であるため、糖尿病と診断された場合は眼科での定期的な検査も必要です。
糖尿病性腎症
腎臓は尿を作る臓器であり、毛細血管が密集しています。
この毛細血管が障害されると、尿が作れなくなるなり、血液の浄化機能に障害が生じます。
これを、糖尿病性腎症といいます。
病状が進行すると、健康な人では尿から排出されるはずの血液中の不要な成分を取り除くために人工透析が必要になります。
週に3回程度、定期的に人工透析を受けるため、日常生活に大きな影響が及びます。
糖尿病性腎症が、人工透析の一番の原因となっています。
糖尿病性神経障害
主に足や手の神経が障害されます。
手足がしびれることもあれば、感覚が鈍くなることもあります。
そのほか、立ちくらみ、胃腸の不調、ED(勃起不全)など、さまざまな神経障害による症状が現れます。
糖尿病の種類
糖尿病には1型糖尿病と2型糖尿病があります。
1型糖尿病
1型糖尿病は、インスリンを分泌するすい臓の細胞に障害があり、インスリンが出なくなることが原因です。
そのため、インスリン製剤を投与することが必要になります。
2型糖尿病
2型糖尿病、糖尿病になりやすい体質(遺伝的な要因)に過食や運動不足、加齢などが加わることで発症します。
インスリンが作用しにくくなっている(インスリン抵抗性)ことが多いです。
糖尿病の診断
初期の段階では自覚症状がほとんどなく、健康診断で血糖が高いことを指摘されたり、他の病気で糖尿病が疑われたりすることで検査をすることが多いです。
採血で血糖、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)と呼ばれる糖尿病の指標値を測定することによって診断を行います。
75g 経口ブドウ糖負荷試験という精密な検査を行うこともあります。
自覚症状はなくとも、臓器への障害が合併していることが多くあります。
血液検査、心電図、超音波検査、血圧脈波検査などで合併症がないかを確認もいたします。
糖尿病の治療
糖尿病治療の目的は、血糖値を正常に保ち、合併症を防ぐことです。そのために
- 食事療法
- 運動療法
- 薬物療法
を行います。
血糖コントロールの目標として、HbA1cを用いることが多く、日本糖尿病学会の糖尿病治療ガイドでは下記が提案されております。
食事療法
糖尿病では食事療法は不可欠です。
適切な量の食事で、必要とする栄養を摂取できるようにコントロールします。
また、規則正しく食事を摂ることも大切です。
当院では管理栄養士による栄養指導も実施しております。
食事療法の基本
- 身長と日常の活動量に適したカロリー摂取
- 必要な栄養をバランス良く摂取
- 規則正しい食事をする
運動療法
適度な運動によってブドウ糖や脂肪酸の体内での利用を促進させ、血糖値の低下やインスリン抵抗性の改善を行うことができます。
運動の種類、時間などは、合併症があるかなどによって調節する必要があるため、相談しながら決めていきます。
薬物療法
1型糖尿病の治療はインスリン注射となります。
2型糖尿病では、内服薬、注射薬(インスリン製剤、インスリンの分泌を促すGLP1受容体作動薬)を患者さんの病態ごとに組み合わせて使用します。
内服薬には、下記のように、インスリンの分泌を促す薬、尿から糖分を排泄する薬、腸での糖分の吸収を抑える薬、糖代謝を改善する薬など、様々な種類があります。
スルホニル尿素薬(SU薬)
すい臓のβ細胞を刺激して24時間持続的にインスリン分泌を促す。
特に、腎機能低下例などでは低血糖のリスクが高い。
速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)
すい臓のβ細胞を刺激してインスリン分泌を促す。
SU薬よりも作用時間が短く、食後の高血糖を改善する。
食前に内服する必要がある。
α-グルコシダーゼ阻害薬
炭水化物を分解する酵素「α-グルコシダーゼ」の働きを抑え、腸内での糖の吸収を抑制する。
食前に内服する必要がある。
チアゾリジン薬
筋肉などでのインスリンの働きを強め、インスリン抵抗性を改善する。
むくみの原因となることがあり、心不全が悪化することもありうる。
ビグアナイド薬
肝臓から血液中に放出されるブドウ糖を減らす。
筋肉などでのインスリンの働きを強め、インスリン抵抗性を改善する。
CT検査などで造影剤を使用する際は、乳酸アシドーシスを誘発することがあるため、内服を中止する必要がある。
安価(3割負担で1錠3円程度)であり、長らく、糖尿病治療の第一選択薬として使用されてきた。
イメグリミン
ミトコンドリアを介した機序で、
- すい臓のβ細胞を刺激してインスリン分泌を促す
- 肝臓から血液中に放出されるブドウ糖を減らす
- 筋肉などでのインスリンの働きを強め、インスリン抵抗性を改善する
といった作用を持つ。
DPP-4阻害薬
すい臓からのインスリン分泌を促す作用がある小腸から分泌されるインクレチン(特にGLP-1)というホルモンの働きを高める。
低血糖のリスクが低い。
SGLT2阻害薬
腎臓でのブドウ糖の吸収を抑え、過剰な糖を尿として排泄して、血糖を下げる。
低血糖のリスクが低い。
GLP-1受容体作動薬(注射、経口ともにあり)
すい臓からのインスリン分泌を促す作用がある小腸から分泌される「GLP-1」と同じように作用する。
低血糖のリスクが低い。
これらの中でも、尿から糖分を排泄するSGLT2阻害薬、インスリンの分泌を促すGLP-1受容体作動薬は心臓病の発症を減らすことが証明されており、当院でも積極的に導入しております。また、以前問題となることが多かった低血糖などの重篤な副作用が少ないため、患者さんの負担が大きく軽減されつつあります。